紙張りから地引きまで
金箔・銀箔を和紙に貼る伝統的な箔押しでは、箔を貼る前の「原紙」の下準備が、仕上がりを大きく左右します。
原紙には糊や漆を施し、乾燥と研磨を重ねながら、箔の光沢や風合いを支える下地をつくっていきます。
ここでは、箔押しの最初の工程である「紙張り」から、金箔の表情を決める「地引き」までをご紹介します。

紙張り
まず、用途に応じた所定の大きさに「紙裁ち」した原紙を用意します。
原紙には、雁皮・楮・三椏などを原料とする手漉き和紙が用いられます。紙の表面に生麩やわらび粉を引き、板に貼り付けて乾燥させます。
その後、ふのりなどを塗って上塗りを行います。これは、後に塗る漆が紙に過度に浸透するのを防ぐ「目止め(目つぶし)」の工程です。
目止めを終えた原紙は、へちまなどで磨いて表面に艶を出し、「地引き」へ進める下地を整えます。
紙裁ちの標準仕様
- 帯地:450 × 600mm
- 金襴:800〜820 × 600mm
地引き
目止めした原紙に、下地漆をヘラで薄く塗り、「室(むろ)」で乾燥させます。その後、約1週間寝かせます。
この工程は、箔を貼った際の光沢や仕上がりを良くするための重要な下地づくりです。後の接着用漆が紙に浸み込みにくくする役割もあります。
下地漆には、精製した漆を用います。仕上げたい風合いによって、大きく「本金光押し(光箔)」と「本金錆押し(錆箔)」の二つの方法を使い分けます。
本金光押し
本金光押しでは、まず箔原紙に艶出しのための地漆を塗り、約1週間寝かせて光沢を整えます。
その後、接着剤となる「押し漆」を塗り、金箔を貼ります。
光沢のある仕上げでは、地漆を比較的厚く引く際に「渋張り紙」を用います。地漆の塗り方、回数、塗布量によって、光沢の度合いを調整します。
- 中サビ(二分サビ):薄く1回塗布
- 中光:薄く1回塗布
- 光箔:通常の厚さで2回塗布
光箔は、「極光」と表現することもあります。同じ金箔でも、下地のつくり方によって光沢や表情が変わります。
本金錆押し
本金錆押しでは、地漆を施さず、箔原紙に直接「押し漆」を塗ります。
押し漆には、精製した漆などを用います。原紙に塗った漆のうち余分なものを、箔合紙を束ねたもので拭き取った後、金箔を貼り付けます。
本金光押しに比べ、箔本来の強い光沢を抑え、落ち着いた「錆びた」風合いに仕上がるのが特徴です。また、錆下よりも渋張りによる目止めのほうが、錆びた風合いが強く出るとされています。
押し漆をつくる
金箔を原紙に接着する「押し漆」は、仕上がりを左右する重要な材料です。
乾燥を促し、接着力を高めるため、生漆100gに対して約0.1gの硫黄末(硫黄粉)を加え、ヘラで丹念に練り合わせます。
かつては、紙当たりの良い鯨のヒレや水牛の角でつくられたヘラが使われていました。現在ではベークライト製のヘラが主流ですが、道具が変わっても、漆を均一に扱う熟練した技術は変わらず求められます。
漆を塗り、余分な漆を取り除く
練り上げた漆をヘラで和紙に薄く伸ばし、余分な漆をしごくようにこそげ取ります。
光沢を抑えた「錆箔」では、晒しなどで余分な漆を拭き取ります。
一方、光沢のある「光箔」では、まず光沢のある漆を塗り、20〜30分ほど置いてからもう一度塗ります。漆が乾いた後、木片に箔合紙をパレンのように巻き付けた「摺木」(「ドンズリ」とも呼びます)を用い、余分な漆をしごいて拭き取ります。
この作業で大切なのは、箔を接着するために必要な漆を残しながら、余分な漆だけをムラなく取り除くことです。力加減を誤ると、漆の厚みや仕上がりにムラが生じます。この微妙な調整を身につけるには、数年の経験が必要とされます。
紙張りから地引きまでの工程は、一見すると単純な作業の積み重ねに見えます。しかし、紙の状態を見極め、漆の量や塗り方、乾燥具合、道具を扱う力加減を細かく調整しなければなりません。
金箔の光沢も、錆びたような落ち着いた風合いも、こうした下地づくりによって大きく変わります。箔そのものだけでなく、箔が貼られるまでの下地づくりにも、長年培われた職人の技術と経験が息づいています。
参考文献
- 西陣織技術読本2023 金銀糸~箔と糸
- 「京都金銀糸平箔史」