「湿気を行き渡らせ、箔の柄を浮かび上がらせる」

箔を貼り詰め、綿がけを終えた箔紙は、次に「乾燥・室入れ」の工程へ進みます。

漆は、適度な湿気と酸素を得ることで硬化する性質を持っています。この性質を利用し、箔紙を高湿度に保った「室(むろ)」に入れて硬化させます。この工程は「室干し」とも呼ばれます。

箔紙は、竹製の伸子に二つ折りにして掛けたり、背中合わせにした2枚の箔紙の両端をクリップで留めたりして、室の中に吊り下げます。

硬化にかかる時間は、錆箔で一晩、光箔では二晩ほどが目安とされます。

硬化が進むにつれて、下地に施された色漆箔の柄が少しずつはっきりと浮かび上がってきます。

また、箔紙の裏側まで湿気が行き渡りやすくするため、吊り下げる際には箔紙に適度な膨らみを持たせます。

室内の温度・湿度を細かく調整

漆が硬化するためには、一般的に温度20~25℃前後、湿度70~80%前後が適しているとされています。

しかし、実際の作業では、温度や湿度を一定に保てばよいというわけではありません。

室の中は下部ほど湿度が高くなるため、そのままにしておくと漆の硬化具合や色の濃淡に差が出ることがあります。そのため、硬化の状態を確認しながら箔紙の上下を入れ替えるなど、細かな調整を行います。

さらに、季節の移り変わりや天候によっても室内の状態は変化します。必要に応じて、湿り気のある布や濡らした新聞紙などを使い、微妙な湿度調整を行います。

室入れの時間についても、その日の気候や箔の状態を見ながら調整する必要があります。

こうした細かな見極めと調整を重ねることで、漆を適切に硬化させ、美しい箔の表情を引き出していきます。

乾燥・室入れは、単に箔紙を乾かすだけの工程ではありません。温度や湿度、時間、漆の状態を見極める職人の経験と技術が、美しい箔を仕上げるうえで重要な工程となっています。

参考文献

  • 西陣織技術読本2023 金銀糸~箔と糸
  • 「京都金銀糸平箔史」